■決勝弾へつながったプレーキャンセル

 退場者を出したあとに同点に追いついただけでも、仙台の粘りは「驚異的」と言える。ユアテックスタジアム仙台の“劇場効果”も、10人で戦う選手たちを力強く後押しした。

 2対2のままアディショナルタイムに突入した90+3分、森山監督は6人目の交代をする。鳥栖が脳震盪による交代をしていたため、追加交代枠として6人目が認められていたのだ。ピッチに座り込んだ宮崎に代わって、FW小林心が投入された。小林は5試合ぶりの出場となる。

 この交代が、土壇場で試合を動かすのだ。

 90+9分、敵陣でのルーズボールにMF鎌田大夢が食らいつき、リスタートから戻りかけていたCB菅田真啓がボールを受ける。菅田はゴール前へクロスを入れようとしたが、目の前に相手選手がふたりいる。判断を変えて右横のCB井上詩音へボールを託す。このプレーキャンセルが、得点を呼び込んだ。

 井上のクロスを長身FW中田がヘディングでゴール前へ流すと、小林がDFと競り合いながら、態勢を崩しながら、右足でシュートへ持ち込む。決して勢いのある一撃ではなかったがものの、相手GKにセーブされることなく静かにネットを揺らす。98分07秒(公式記録は99分)の大逆転ゴールで、仙台が3対2の勝利をつかんだのだった。

 2対2に追いついてからは明らかに優勢で、数的不利を感じさせなかった。鳥栖にもゴールに迫られたものの、GK林彰洋が身体を投げ出すような場面はなかった。クラブ史に残るに違いないドラマティックな勝利は、偶然ではなく必然だった。

 34節を終えた順位は、首位・水戸(勝点64)、2位・V・ファーレン長崎(勝点63)、3位・ジェフユナイテッド千葉(勝点59)、4位・仙台(勝点58)、5位・徳島ヴォルティス(勝点57)、6位・RB大宮アルディージャ(勝点57)となっている。徳島とRB大宮は、残り4戦全勝で勝点69だ。J1自動昇格の2位以内へ食い込むのは、やや厳しくなってきた。

 J2残留争いでは、最下位の愛媛FCのJ3降格が決定した。今シーズンはJ1昇格を目標としてスタートしたが、初勝利は4月19日の第10節で、前半戦終了時の成績は1勝9分9敗だった。5月下旬に石丸清隆監督との契約を解除し、青野慎也ヘッドコーチが暫定監督を経て正式に就任したが、浮上のきっかけをつかめないまま降格決定となった。

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