
蹴球放浪家・後藤健生は、これまで多くの試合を観戦してきた。その中でも「忘れられない」最高の試合が、1つある。その甘美な思い出は来年、北中米ワールドカップが開催されるメキシコの、ある州都のスタジアムとつながっている。
■マラドーナが消した「守備的」な印象
僕はこれまでに約1000か所ほどのスタジアムで試合を見たことがありますが(実際の数は僕も知りたいのですが、ちゃんと数えたことはありません)、最も思い出深いスタジアムのひとつに、メキシコのハリスコ・スタジアムがあります。スペイン語で言えば「エスタディオ・ハリスコ」。メキシコ・ハリスコ州の州都グアダラハラにあるスタジアムです。
僕はメキシコには1回しか行ったことがありません。もちろん、1986年のワールドカップのときです。
1986年のワールドカップはディエゴ・マラドーナの全盛時代。アルゼンチンのカルロス・ビラルド監督は守備的なサッカーで有名ですが、その中にマラドーナがいたことで「守備的」という印象はすっかり消えてしまいました。ビラルド監督は国内でもその戦い方に批判を受けていましたが、アルゼンチンが2度目の優勝を決めた後、アステカ・スタジアムのピッチには「ペルドン、ビラルド。グラシアス」と書かれた大きな国旗が掲げられました。「ごめんなさい、ビラルド。そしてありがとう」という意味です。