■空しかった「スライディング」
「なんとか勝点1でも」と必死の讃岐は、GK飯田雅浩も駆け上がっていく。ボールをセットするのはMF江口直生。だが、その前わずか4メートルのところに、福島の187センチの長身FW矢島がボールに背を向けて立っている。主審に向かって「カードだ」とアピールする江口。画面には瀬田貴仁主審は映っていないが、「ピッ、ピッ、ピッ!」と鋭い笛が吹かれ、ボールのすぐそばの井手本瞭副審も指差して矢島に離れるように促す。
ボールに向き直った矢島は1メートルほど下がったところで立ち止まり、そこで両手を広げて「離れてるよ」といったポーズをとる。そこに瀬田主審の長い笛。江口がキックのモーションに入ろうとしたとき、矢島は小さくステップを踏んで再びボールに背を向ける。このステップで、ボールとの距離は、数十センチは短くなったはずだ。
そしてボールは矢島の背中を直撃。江口は両手を上げて主審にアピールしたが、素早く反応した矢島がボールを追って走っており、あわててそれを追う。矢島は振り返って江口が10メートル以上離れているのを確認すると、ゆっくりとペナルティーエリアに入り、無人のゴールにボールを流し込んだのである。懸命に戻った讃岐DF上野輝人がスライディングで防ごうとしたが、空しかった。