■「してやったり」のベンチスタート

 一方、川崎の長谷部監督も、勝利はしたものの、満面に笑みを浮かべるような心境ではなかったようで、「守備面で隙を見せてしまった。分かっていながらやられた」と守備面の反省をひとしきり語った。

 この夜の長谷部監督の戦略のポイントのひとつが、マルシーニョのベンチスタートだった。

 前半は、左アタッカーの位置には橘田健人を起用。橘田は時にはサイドバックもこなすマルチな選手だが、サイドアタッカーでの起用は珍しい。そして、後半開始と同時にマルシーニョを投入し、川崎は徹底してマルシーニョを使って、町田のウィングバック、望月ヘンリー海輝の裏のスペースを攻略した。

 65分の3点目は、マルシーニョではなくエリソンが左に回って、やはりそちらのサイドを突破したことから町田の守備を混乱させて、交代出場したばかりの宮城天の得点につながったもの。そして、90+10分の5点目はまさにマルシーニョがボールを受けた瞬間に、望月のアタックをかわして持ち込んだところから生まれたものだった。

 狙い通りの攻撃で後半に3得点。その意味では長谷部監督は「してやったり」のはずである。

 だが、後半の得点はすべてトップのエリソンと後半から出場したマルシーニョの個人能力から生まれたものだった。

 相手DFの激しい当たりを跳ね返すエリソンの力強さと、相手を置き去りにするマルシーニョのスピード。2人がそろって力を発揮すれば、川崎の攻撃は非常に高い破壊力を持つことになる(かつてのマルシーニョは突破した後の展開力が乏しかったが、今では決め切る力をつけている)。

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