
8月最後の日曜日に行われた、川崎フロンターレとFC町田ゼルビアの一戦。ナイトゲームにもかかわらず、30度を超える暑さの中で行われた激闘は、両チーム計8ゴールの殴り合いに。現地で観戦したサッカージャーナリスト後藤健生が受け取った、猛暑の熱闘からのメッセージ!
■「失点が少ないと言われる町田が…」自虐ネタ
8月31日。夏休み最後の日曜日。Uvanceとどろきスタジアムで行われたJ1リーグ第28節、川崎フロンターレ対FC町田ゼルビアの試合は、激しい点の取り合いの末、ホームの川崎が5対3で勝利した。
19時開始だというのに30度を超える暑さの中だったが、素晴らしいシュートが次々と決まり、まるで真夏の花火大会のような試合だったので、2万2000人を超える観客は大いに楽しめたはずだ。
だが、公式戦13試合無敗としてJ1リーグのタイトルも視野に入りつつあったところで敗戦を喫した町田の黒田剛監督はもちろん、殴り合いのような試合で勝利をつかみ取った川崎の長谷部茂利監督もけっして満足した様子ではなかった。
記者会見場に先に現われたアウェイの黒田監督は「失点の場面があまりに軽率すぎた」と振り返り、「失点が少ないと言われる町田が5失点…」と自虐ネタのようなセリフを吐いた。
どんな試合でも、勝利への執着心をグッと胸の中にしまい込んで、冷静なコメントを発する黒田監督。時には「木で鼻を括ったような」印象も与えるが、時に発するこうした自虐ネタが魅力的だ。
前半20分に、小さな振りからの意表を突くシュートを決められた1失点目は、シュートを放った伊藤達哉のシュート技術を称えるしかなかっただろうが、後半の3失点はゴール前で守備陣が混乱した中での失点だった。冷静に対処できていれば防げたもので、黒田監督にとっては容認できなかったことだろう。
町田では、この日はGKの谷晃生が欠場していた。事前の発表はなかったがケガだそうだ。谷がいればゴール前での混戦は生まれなかっただろうし、1点目の伊藤のシュートだって止めていたかもしれない。
黒田監督は「メンバーが変わって浸透度が足りなかった……」と、谷の名前は出さずに悔しさをにじませた。
実は、最近の町田の快進撃は谷の存在を抜きには語れない。スーパーセーブを連発して、谷はいったい何失点を防ぎ、そして町田に何ポイントをもたらしたのか……。
町田としては、「谷がいれば……」という敗戦だった。だが、それを言ってしまったら「これまでの無敗記録は谷のおかげ」ということを暗に認めることになる。黒田監督にとって、それも認めたくないところだったのだろう。