■伊藤達哉の交代は“初めての経験”
77分に行われた伊藤達哉の交代も、想定外の要素が絡んだものだった。その要因はピッチにある。このスタジアムの芝はとても薄く、その下の地面は異常に硬い。筆者もこの芝の上を走ったが、それだけで膝にダイレクトに振動が来るようだった。
そしてそのピッチが、伊藤の足に影響を与える。というのも、前半の途中から足が痺れてひざ下の感覚がなかったのだという。
「ハーフタイムにケアしてもらってちょっとは良くなったんですけど……」
今年新加入のドリブラーはそう振り返る。そして、「とはいえ、後半も数分プレーしただけで感覚がなかったので、ベンチにその状態を伝えていました」とも語る。
「こんな経験はないですし、こんなに硬いピッチも経験したことがなかった。それが(足に)影響していると自分は思う」
伊藤にとって想定外のコンディションは、当然、指揮官にとっても同じこと。監督は違えど昨年は早い段階で交代の対象となっていたマルシーニョを残しながらも伊藤を先に交代したことが、それを表している。
「いつ何時も私のなかでベストを組んでいるつもりです。(選んだ)11人が正解なのか、私はそう思っていますが、試合が終わってみないと分かりません」
筆者の別な質問にそう答えた長谷部監督は、刻一刻と状況が変わる重さを知っている。だからこそ、変化や事象を見逃さずに一つ一つに冷静に対応したことで、勝利を得たのだった。
(取材・文/中地拓也)
(後編へ続く)