現在、オフシーズンのJリーグ。だが、試合のない時間は、新シーズンへの期待が高まる時期でもある。次々と選手や監督の去就が発表される中、サッカージャーナリスト大住良之は、来季のJ1リーグの「台風の目」として、2024年シーズンを6位で終えた、昇格組の東京ヴェルディを挙げる。京都サンガから期限付き移籍中の2人、山田楓喜の海外挑戦(ポルトガル1部CDナシオナル)と木村勇大の完全移籍などチームの新編成や、知られざる城福浩監督の過去まで、この機会に振り返りたい。
■やり抜いた「あと1センチ」サッカー
1か月後、7月20日の天皇杯ラウンド16、ジュビロ磐田(J1)戦では、「城福イズム」がさらに浸透しているのが確認できた。
この試合を前に、7月11日にヴェルディではチーム内で複数人の新型コロナウイルス感染者がいることがわかり、6日間の活動停止を余儀なくされた。天皇杯の試合は13日の予定だったが、1週間延期されたものだった。
練習再開は7月17日。故障者も体調が万全でない選手も多く、磐田戦のメンバー編成は控えにFWがいないという異常事態だった。しかし、ヴェルディは「いつものサッカー」をやり抜いた。前線からプレスをかけ、ボールを奪うと相手ゴールに向かった。
ヴェルディの選手たちの、「プレス」は「本気」だった。自分が行かなければならない選手にパスが出そうになると、一歩目からトップスピードに乗り、まるで100メートル競走のように両腕を力強く振って相手に激しく詰め寄った。そしてプレスをかけた先の選手がボールをさばくと、「二度追い」でも「三度追い」でもやった。
0-0で迎えた試合の終盤にPKで先制、アディショナルタイムに同点とされたが、延長に入ると「前に走れる選手を置きたかった」と、本来、MFの西谷亮と奈良輪雄太を最前線に並べた。「前に走れる選手を置き、できるだけ相手ゴールに近いところでボールを奪うサッカーをしたかった。このチームの基本をブレさせたくなかった」(城福監督)。その意図に、35歳を迎えようようとしているベテランの奈良輪が応え、延長後半9分に決勝点を決めて2-1で勝ち切った。
「いつもこれが人生最後の試合、プロ生活がこれで終わってもいいという思いでプレーをしている」
試合後、奈良輪はこう語った。35歳のベテランがたどり着いた境地に違いないが、その姿勢は、城福監督の姿勢そのものだった。そして、その姿勢は、翌2023年、そしてJ1に昇格した2024年も緩むことなく受け継がれている(奈良輪は2023年、昇格を見届けると現役を引退。翌年1月、トップチームコーチに就任している)。
「あと1歩、あと半歩、あと1足分、あと1センチ」と、城福監督は口にする。
相手にプレスをかけるとき、2メートルまでしか詰められないのと、そこからさらに1歩詰めるのでは大きく違う。それを予測や決断、そして走るスピードで、あと半歩でも、あと1センチでも伸ばしていこうという不断の努力が、現在のヴェルディのベースになっている。