■FAカップ決勝が「盛り上がる」理由
現在の世界のサッカーには、ワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグ、欧州選手権など世界的な注目だけでなく、莫大な放映権収入を集める巨大大会がある。しかし、イングランドのFAカップ決勝戦は、1協会のたった1つの試合であるにもかかわらず、他には例を見ない存在感を放っている。
試合は毎年5月下旬の土曜日、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催される。プレミアリーグ閉幕の1週間後。前年8月からファンを沸かせ続けてきたイングランドのサッカーシーズンの最後を飾る一戦である。
現在はプレミアリーグもその下のリーグもライブのテレビ放送(ペイテレビだが)で楽しむことができる。放映権収入がリーグやクラブに莫大な収益をもたらし、テレビ放映があることでファンをさらに増やし、イングランドのサッカーは事業として最高のときを迎えている。
しかし、わずか数十年前には、イングランドのクラブサッカーで生中継が行われるのは、FAカップ決勝戦だけだった。1980年代までは、「生中継が行われるとスタジアムに来るファンが減り、収入減となってクラブ経営を脅かされる」と、固く信じられており、リーグの生中継は行われなかったのである。
そのせいもあり、FAカップ決勝当日は、朝からまるでお祭りのような騒ぎだった。事前番組が次々と流され、キックオフの6時間、7時間前からウェンブリー・スタジアムに押しかける両クラブサポーターの様子などを伝えて、「カップファイナル・デー」の雰囲気を、否が応にも盛り上げるのである。