■サッカー人としての「最高の幸せ」
ところが、元日の「NHK杯サッカー」は思いがけなく好評だった。明治神宮に初詣に行ったファンが国立競技場に集まり、視聴率も予想を上回った。その成功を見て日本協会は元日に天皇杯決勝を入れることを提案、NHKが了承して翌年から「元日は天皇杯決勝」となったのである。
「元日サッカー」という卓抜したアイデアであった「NHK杯」は、1回限りで終わった。天皇杯決勝が今もNHK総合で生中継され、数ある優勝トロフィーの中で「NHK杯」が「天皇杯」に次ぐ地位を占めているのは、こうした経緯によるものだ。
「元日決勝」は、1960年代から1990年代初頭にかけて、すなわちJリーグ以前、日本のトップクラスでは最も多くの観客を集める大会であり、コンスタントに3万人ほどが集まって盛り上がりを見せた。「サッカー関係者の賀詞交換会(新年の挨拶と名刺交換を行う催しの一つ)」の趣きまで生まれ、完全に定着したものとなっていたのである。
日本サッカーリーグ時代には、11月中にリーグ戦を終了して、12月に入ってから天皇杯の1回戦が始まるという形が多かった。準々決勝が12月23日、準決勝が30日、そして決勝戦が元日と、やや強引な日程だったが、年末に大会はグッと盛り上がり、元日の決勝戦を迎える形だった。
「サッカー人として、大みそかをチームの合宿で迎えられることほど幸せなことはない」
そう語る決勝戦進出チーム監督も少なくなかった。