■「アドレナリンが出ていた」

 その小林悠は、試合中にウォーミングアップしながらスタジアムの巨大モニターで戦況を分析していた。何を感じていたのか聞いてみれば、「1人少ない中でパワーが必要だったので最初にエリソンだなと思ってましたし、最後の時間で投入されるなって予想はしてたので、試合を見ながらしっかり準備することと、入ったらゴールに絡むように狙っていました」と話す。
 苦しい状況でまずはパワーを注入して押し返し、そのうえで最後の一撃を放つ。長年、鬼木達監督とやってきたベテランストライカーは、その意図を理解していた。
 ピッチでのプレー時間は11分。その間に、2つのポジションでプレーした。4-4-1の左サイドと、4-3-2の2トップの位置においてだ。
「(最初は)左サイドで入って、逆サイドからのクロスとかに入っていくイメージだったんですけど、そういうシーンもあんまりなくて、最後ツートップになってからは少し絡めたので、左で入ったときももっと中に入っていけばよかった」
 そう悔やんだが、ピッチの中でギラギラした気持ちはあふれ出ていた。高い位置で前進しようとするプレーをファールで止められると、大きな声を出して怒りを露わにした。
 珍しい場面だっただけに振り返ってもらうと、「時間がなかったので早くやりたかったですし、点が欲しかったので……」と唇をかむ。
 さらに、「すごい集中していて、アドレナリンが出ていたので、ああいうふうになりましたけど……」と続けるも、再び間を置く。そして、うつむいた顔を上に向けて、「やっぱり決めたかったですね。短い時間でしたけど、やっぱり決めたかったなって」と絞り出した。声は小さかったが、その目はピッチにいるかのように、ギラギラとしていた。

PHOTO GALLERY 全ての写真を見る
  1. 1
  2. 2
  3. 3