少し歩けば汗が流れるほどの蒸し暑さだった。2026FIFAワールドカップアジア最終予選、サウジアラビア戦の会場であるキング・アブドゥラー・スポーツシティ・スタジアム。日没しても風の通らないスタジアムには、日本ではあまり体感できないような熱気がこもっていた。
それを確かめるかのように、森保一監督がピッチに出てきたのは19時20分頃。キックオフまでまだ1時間40分がある時間帯である。
ピッチのコンディションを見て、スタジアムの様子を見て、引き上げるかと思われた指揮官だったが、視線をスタジアムの一角へと移す。そこは、サッカー日本代表のサポーターが青く染め上げるエリアだった。
視線だけでなく、足も動かす森保一監督。サポーターを実直に見つめながら、一歩一歩、近づいていく。そしてサポーター一人ひとりの顔が確認できる場所で止まると、胸に手を当てる。サポーターからも声が出る中、監督は引き上げようとしたそのときだった。
「人数は少ないですけど……」
サポーターの声に、森保一監督が足を引き返し、体の向きを戻す。
「人数は少ないですけど、頑張りましょう!」
改めて出た言葉に、指揮官も応える。両手を使って一つであるサインを示したうえで、「一緒に戦いましょう」と発したのだ。