■「本人に聞いてもあれなんですけど……」
それから1年が経過した今年8月17日、川崎フロンターレでプロデビューした選手がいる。下部組織上がりのGK早坂勇希だ。
GKというポジションの特性上、出場機会はフィールドプレイヤー以上に限られている。そのため、正GKというポジションを掴んでない限り、リーグ戦で出場となればアクシデントによる要素が大きい。早坂もその例に漏れず、突然、チャンスは巡ってきた。
「緊張していた」
ある主力選手は早坂の様子についてそう振り返っているが、スタジアムに着いたときにはそれもなくなっていたという。というのも、そのバスの中で瀬川が早坂をいじっていたという。その際にかけた言葉は、直接的な励ましなどではない。むしろ、緊張を解すための軽口だったからこそ、心も和らいだ。
早坂自身、瀬川の名前を出して感謝の気持ちを表していた。
佐々木旭に早坂勇希、そして山本悠樹――。
9月28日の練習後に、瀬川に「本人に聞いてもあれなんですけど……」と、感謝の言葉が瀬川に向けられていることについて向けると、少し考えたうえで、「インパクトがあるんじゃないですか。必要以上にいじったりするんで」と答えてくれた。
「去年はいじるというよりは、“サブの選手はスタメンで出たい中で、どうやったらスタメンで出れるか”っていうのを考えていた。その結果、サブの選手が活躍したらスタメンを取れるでしょって思った。
それは、自分にも言い聞かせているような感じで、自分を奮い立たせる意味も込めています。“サブで試合を決めよう”って。だから、それを毎試合言っていた。現に去年は年間通して交代選手が出てから後半勢いづくような試合が多くて」