■名将の目標は「優勝」「昇格」ではない

 これがJリーグだったら、監督は記者会見の冒頭で「サポーターの皆さんにお詫びをしなければ……」と切り出したに違いない。監督が謝罪しなければ、サポーターの怒りは収まらないだろう。

 ところが、南葛SCの試合後、監督は「面白かったでしょ?」と話を切り出した。南葛SCの監督とは、あの風間八宏氏である。

 もっとも、これは公式の記者会見でもないし、「囲み」でもなく、風間監督と僕の1対1の立ち話だった。だから、風間監督も安心して「面白かったでしょ?」と言ったのだろうが……。

 もちろん、選手もチームも監督も勝利を目指して戦っているのは当然だ。相手より1点でも多くゴールを決めて勝利するのがサッカーというスポーツの目的だ。

 さらに、勝点を積み重ねて順位を上げて優勝を目指すのがリーグ戦というものであり、そして、その先に「昇格」という目標もちらついてくる……。関東リーグというカテゴリーのリーグなら、上位に入って地域サッカーチャンピオンズリーグに挑戦して、JFL昇格を狙う……。

 どのチームも、どの監督も、そうした目標を持って戦っている。

 だが、風間監督の目線はそこにはない。

「うまくなること」

 それが、このチームの目的なのだ。

 南葛SCは1983年に創設されたクラブチームだが、2013年にサッカー漫画の金字塔『キャプテン翼』の作者である漫画家、高橋陽一氏を後援会長に迎え、漫画の中で大空翼が所属していたチームと同じ「南葛SC」に改称。2019年には高橋氏をオーナー兼代表として法人化され、翌2020年にはJリーグ百年構想クラブとして承認された。同年には東京都リーグ1部で優勝し、関東リーグ2部昇格を決め、同2部は1年で通過し、2022年から関東リーグ1部で戦っている。

 そして、2024年から、かつて川崎フロンターレの監督として、のちにJ1リーグで4回の優勝を記録する川崎の基礎を築いた風間を、監督兼テクニカルダイレクターに迎えて注目を集めているのだ。

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