■メッシも足を止めた「瞬間」に…
2019年1月のスペインリーグ、FCバルセロナ対エイバル。バルセロナの2-0のリードで迎えた後半13分、右サイドをバルセロナのセルジ・ロベルトが攻め上がり、エイバルのペドロ・ピガスが倒れながら絡んでボールがタッチを割る。副審はコーナー側に旗を上げ、バルセロナ・ボールであることを示す。
すぐ内側にいたエイバルのルベン・ペニャは、セルジ・ロベルトの足に当たって出たと両手を上げてアピール。彼がマークしていたバルセロナのリオネル・メッシも足を止める。
しかしピッチ内には、ただひとり足を止めなかった選手がいた。彼らより中央寄りの前にいたバルセロナのルイス・スアレスである。彼は斜め外側に向かって走ると、左手を広げてボールを拾ったセルジ・ロベルトのスローインを促す。そして投げられたボールをゴール方向に流しながら一歩持ち、エイバルGKアシエル・リエスゴの動きを見ると、その足元を破って勝利を決定づける3点目を決めたのである。
セルジ・ロベルトも、タッチ外に出たボールをそのまま足を止めずに走って追い、即座に拾った。そして顔を上げてスアレスがフリーなのを見て取ると、迷わず投げた。ふたりの呼吸がピタリと合った見事な得点だった。
厳密に言えば、セルジ・ロベルトが投げたのはボールが出た地点から5メートル以上前だったし、投げたのも頭の上あたりからで、「ファウルスロー」気味だった。しかし、エイバルの選手たちも天を仰ぐばかりで、スペインではこのシーズンから採用されたビデオ・アシスタントレフェリーも、異議は唱えなかった。
ほっとひと息、足を止めがちな状況に、集中を切らさず「クイックスローイン」をすれば、大きなチャンスになることがある。ところがサッカー選手の多くは、はっきり言って「なあなあ」のプレー習慣に飼いならされてしまっており、このようなチャンスをみすみす空費してしまうのである。