大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第144回「スローをブキにしてくれ」(1)新潟・小野裕二「面白い」背中プレーとバルセロナ・スアレス「空費なし」クイックの画像
ガンバ大阪時代の2020年、右膝前十字靭帯を損傷。その後、古巣のサガン鳥栖を経て、2024年に新潟へと完全移籍した小野裕二。京都戦でPKを決めた他、トリッキーなプレーで観客を沸かせた。撮影/原壮史(Sony α‐1)

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、J1で旋風を巻き起こしているFC町田ゼルビアの「伝家の宝刀」について。重要なのは、細かなことをおろそかにしないこと。

■スローインを「武器」にする

 夜中にオリンピックのサッカーを見た後、ベッドに入っても眠れずに悶々としているときに思い浮かんだのがこのフレーズだった。思わずベッドから飛び起き、仕事机のスタンドをつけて、忘れないようにメモした。(そのまま寝ていたら、間違いなく朝にはその記憶の跡形もなかっただろう)。

「スローをブキにしてくれ」

 もちろん、私と同世代のシンガーソングライターである南佳孝さんの大ヒット曲『スローなブギにしてくれ(I want you)』のもじりである。

 片岡義男さんの短編青春小説「スローなブギにしてくれ」(1975年)が東映と角川春樹事務所で映画化された1981年、その主題歌としてつくられたのが、この曲である。半世紀近くも前の曲だが、「ウォンチュー~」で始まる名曲は、若い世代でも耳にしたことがあるのではないか。作詞は松本隆さん、作曲は南さん自身である。

 最初から楽屋裏暴露の言い訳じみた記事になってしまった。スローインの歴史などについては、この連載でも、2022年の11月に、「チコちゃんに叱られる」に出演した後藤健生さんへの「いいな~」という羨望(せんぼう)を含めて書いた。今回は、スローインの戦術について少し考えてみたい。スローインを「武器」にするのだ。

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