■「幅広い選択肢を持ってもらいたい」の親心

 そういった中、大きく伸びる選手というのは、自分で考えて変化していける選手。指揮官は長い育成年代の指導経験を踏まえて、そう考えているという。

「相手も対策してきますし、こちらのストロングポイントを封じようとあの手この手を使ってくるのがサッカーの世界。スピードのあるサイドアタッカーなら、タテに止められた時に中に持ち込んでシュートもある、周囲と連携しながらゴール前に行く力もあるというように、自分を変化させていく力が必要。それがないと、対策を打たれただけで終わってしまう。僕が指導しているチームの選手にはそうなってほしくないし、幅広い選択肢を持ってもらいたいんです。

 自チームの状況、敵の出方を考えながらプレーを選択できる選手という観点で見ると、今の仙台ではベテランの長澤和輝が優れていますね。昨年途中からウチに来たけど、本人としては『全然ダメだったよね』というところからスタートしたから、より貪欲に取り組めていると思います。彼自身も『仙台で変わらないといけない』という強い危機感をピッチ上で示している。

 その姿勢がポジティブな影響を与えていますし、他の選手も『自分も変われるんだ』『全員にチャンスがあるんだ』と思って取り組んでくれている。今のチームの雰囲気は素晴らしいですね」

 そうやって1人1人が確実に前向きな変化を見せている今季の仙台。やはり森山監督の厳しくも情熱的なアプローチによるところが大なのだろう。オナイウ情滋工藤蒼生鎌田大夢ら清水戦でベンチスタートだった面々もグッと伸びてくれば、シーズン終盤には選手層がより厚くなり、J1昇格も現実味を帯びてくる。そういった展開を期待したいものである。

【もりやま・よしろう】
1967年11月9日生まれ、熊本県出身。現役時代はサンフレッチェ広島などでプレーし、サッカー日本代表としてもキャップ数を重ねる。引退後は指導者の道を歩み、サンフレッチェ広島ユースでコーチと監督を歴任。その後、日本サッカー協会で育成年代の監督を務め、U―17日本代表監督としてFIFA U―17ワールドカップに出場した。今季からベガルタ仙台の監督を務める。

※記事内のデータはすべて8月9日執筆時点

(取材・文/元川悦子)

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