■クギの先がクツ底を突き抜けて「足」に
では、なぜこんな危険極まりないものを、ルールは許しているのか。私などは、スタッドを禁止にしたらいいとさえ思ってしまうのだが、スタッドが不可欠なのは、もちろん、足の力を確実にピッチに伝え、速く走り、そして足をスベらせないためだ。試合をスピーディにし、魅力的なものにするためのものと言ってもよい。
19世紀半ばにサッカーが誕生した頃、プレーヤーたちのシューズにはスタッドなどついていなかった。普通のクツだったが、足首を保護するためにブーツ型だった。現在でも英語の記事を見るとサッカーシューズのことを「boots」と書くことが多いのは、その時代の名残である。鉄製のゴールポストを「woodwork(木製品)」と呼ぶのに似ている。
シューズにスタッドをつけるようになったのは、20世紀に入ってからだった。厚めの革を何枚も貼り合わせて1センチほどの厚さにし、丸くくり抜く。それをクギで靴底の革に打ちつけるのである。
革のスタッドだから、すぐにすり減ってしまう。そこで頻繁にスタッドのつけ変えをしなければならなかった。古いスタッドを外し、金づちを使って新しいスタッドを打ちつける作業である。中学時代に私がサッカー部に入った頃、部室にはこの作業をするための「金床(かなとこ)」が置いてあった。もっとも私がプレーし始めた頃にはスタッドは革製ではなく、アルミニューム製になっていて、その底部(クツ底に当たる部分)が薄く広がっていて穴が開いており、短いクギで打ちつける形になっていた。
こうした形だったため、使っている間にクギの先がクツ底を突き抜け、足に刺さるということがよくあった。これでは痛くて試合にならない。そこで当時の選手たちは靴下を2枚重ねにするなど、それぞれに「予防措置」をとっていたほどだ。