■棄権の真実「W杯よりもオリンピック」を優先
「裸足でのプレーを認めなかったのでインドは棄権した」という話は、当時も世界を驚かせた。しかし現在では、それが正確ではなかったということが定説になっている。
当時のインド代表キャプテンだったセイレン・マンナが後に語ったところによると、インド協会はシューズ着用について選手たちに何の相談もしなかったというのだ。聞かれれば、選手達は喜んでシューズを履き、ワールドカップに出場することを選んだはずだと、彼は話している。
「インドサッカー協会はワールドカップよりオリンピックを優先させた。それが棄権の真の理由だ。1948年のオリンピックが『旧宗主国』の英国で行われたこともあり、オリンピックは当時のインドでは非常に大きな存在だった。それに対し、ワールドカップなど、一般のインド人にはほとんど知られていなかった。だから、わざわざブラジルまで出かけていく気など、当時の協会の幹部にはまったくなかったんだ」
その後、インドはオリンピックでは1952年のヘルシンキ大会(出場25チーム)に参加し、予備ラウンドでユーゴスラビアに1-10と大敗したが、続く1956年のメルボルン大会(出場11チーム)では1回戦で日本を2-0で下したオーストラリアと準々決勝で対戦。4-2で快勝して準決勝に進み、メダルは逃したものの最終的に4位という快挙を達成する。ちなみに、ヘルシンキ大会があまりに寒く、「裸足のインド」は凍えてしまったため、インドサッカー協会は以後、シューズ着用を義務づけたという。すなわち、1956年には「裸足」の選手はいなかったのだ。