引き分けはいつから「勝ち点1」になったのか?(1) R・バッジョW杯の「得点」増加と負け同然の「思考」停止 大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第135回の画像
「3-1方式」は1994年ワールドカップで採用され、その結果を受けて翌年から「世界標準」となった。2回の決定を報告する『FIFA NEWS』1994年1月号(左)と10月号 ©Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は「引き分けは負け同然?」と感じさせる現代のサッカーのからくりについて。

■引き分けの瞬間「すべてのサポーターの思考が停止」

 Jリーグの試合で、いつもとても奇妙な思いがすることがある。試合が引き分けに終わった直後のサポーターやファンのリアクションだ。

 同点で迎えたアディショナルタイム。「勝ち点3」を目指して懸命に攻めるホームチーム。アウェーチームは4バックから5バックに変え、あわよくばカウンターで決勝点を奪おうと、ペナルティーエリアまで9人が引いて守る。サポーターの歌声は最高潮になり、「もしかしたら、ドラマがあるかもしれない」と心拍数が上がる。

 しかし、表示されたアディショナルタイムが過ぎ、ひとつの攻撃が一段落ついたところで主審が長く笛を吹く。引き分けだ。その瞬間、ホームもビジターも、すべてのサポーターが「思考停止」に陥ってしまうのである。勝ったら勝者を称える歌を歌い、負けなら状況次第で「次は勝とう」とか、ブーイングとか、すぐに反応する方法はあるのだが、どうしたことか、引き分けで終わると、数秒間、黙りこんでしまうのだ。

「引き分けは負けも同然」

 そう思っている人が少なくないのではないか。勝ち点3には遠く、負け(勝ち点0)にちょっと毛が生えたぐらいの「勝ち点1」。負けることは相手に勝ち点3を与えることを意味しており、ポジティブなのは、それを阻止したということだけで、勝ち点1をもらっても順位が上がるわけではない…。「引き分けが残すのは、2つの負けチーム」という感覚が、多くの人にあるのではないか。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4