各国の各スポーツには、競技を代表する競技場がある。日本のサッカーであれば、天皇杯決勝などが行われてきた国立競技場が、その特別な場所にあたるだろう。立派な建物で、収容人数も多い。大いに活用されるべきだが、安易な「国立頼み」は正しいことなのか。ベテランのサッカージャーナリスト大住良之が、国立競技場でのJリーグの試合開催の是非を問う。
■30年で10クラブから「60クラブ」へ発展
Jリーグの試合を国立で開催してきた、そして、これから開催するクラブは、すべてホームタウン内に立派なスタジアムを持っている。その「家」にいつもと同じ顔ぶれのファン・サポーターが集まり、心を合わせてホームチームを応援するという営みを、何年、何十年と積み重ねてきたことこそ、Jリーグを日本に根づかせ、また10クラブから30年間で60クラブへと発展させた根本的な要因だった。
「年に1試合程度なら」と言うかもしれない。鹿島、神戸、横浜FMのファンも、国立競技場での試合を楽しみにしている人も多いに違いない。総工費1569億円という法外な費用(吹田のパナソニックスタジアム10個分以上の建設費)をかけて建設された豪華なナショナルスタジアム。オリンピックのメイン会場となった最新のスタジアムを、一度は訪れてみたいというファンも少なくないだろう。
何よりクラブは、5万人を超す入場者を見込める都心のビッグスタジアムでの開催に、大きな魅力を感じているのではないか。できるだけ多くの試合を開催してほしい国立競技場とともに、「ウィン・ウィン」の関係になっているのかもしれない。
だが、私が見聞した限りでは、入場者「5万超」という数字には相当な無理がある。その数字を成り立たせるには、少なからぬ「ただ券バラまき」が存在する。ホーム19試合(昨年まではJ1が17試合、J2は21試合)のうち、ひとつを国立競技場で開催することで、平均入場者数が上がり、収入も増えるかもしれない。だが、それが、ホームタウンの人々の幸福度を増すことにつながってはいないのではないかと思うのである。