「俺、30年前もこれ取材したんだよね」
ベテランのカメラマンが国立競技場でこうつぶやいたのは、観客席がまだまばらな時間帯だった。雨はまだ無視できるほどの強さだったが、朝からの冷え込みはさらに厳しくなっている。言葉と一緒に出た白い吐息がすぐに消えると、感慨深げな表情がよりはっきり見えた。
この試合は1993年5月に開幕したJリーグの開幕戦と同じカードだった。東京ヴェルディと横浜F・マリノス――互いにチーム名は変わったが、その伝統を受け継ぎながらJ1の舞台でぶつかることになった。東京Vは長らくJ2を舞台にしていたため、トップリーグに帰ってきたのは16年ぶり。そんなメモリアルイヤーに、Jリーグは93年と同じように国立競技場のピッチを用意した。
川淵三郎初代チェアマンがメインスタンドを前に立って言葉を述べた際に思わず涙ぐんでしまったことが、この伝統の一戦とJリーグが積み重ねた歴史の重さを何よりも伝えている。寒さと雨の中で集まった観客は5万3千人。サッカーファンもその重さを理解していた。