大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第131回「消えた航空会社」「戒厳令の夕闇」(2)【1978年アルゼンチンW杯「初の南米」取材】の画像
1年後の1978年W杯に備えて、メディア関係の仕事をしていた準備委員会の人びとと。(c)M.Tomikoshi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、「地球の裏側で…」。

■「消えた」世界最大の航空会社

「パンナム」などという航空会社の名前さえ、今は知らない人が多いに違いない。1927年に設立され、フロリダのキーウェストとキューバのハバナを結ぶ路線からスタート。「パン」は「すべて」を意味し、「汎」という文字が当てられるギリシャ語由来の言葉で、「全アメリカ」は、南北アメリカ大陸をカバーすることを目指した名称だった。

 アメリカ国内の路線には興味を示さず、南米へと路線を広げた後、1930年代には大西洋をまたぐヨーロッパ路線、さらには太平洋を横断するアジア路線と世界に向かって翼を広げ、第二次大戦後はボーイング707や747などジェット旅客機の開発にまで関わった。毎日、東回りと西回りの2本の「世界一周便」を出していたことでも、同時の「パンナム」の威勢がわかる。現在も世界の一流ホテルチェーンのひとつである「インターコンチネンタル」は、「パンナム」のホテル部門だった。

 1976年には、ボーイング747SPという長距離機を就航させ、東京(羽田)とニューヨーク間約1万6000キロを世界で初めて無着陸で飛び、毎日、運行するようになる。私が南米に初めて行った頃は、間違いなく世界で最大の航空会社だった。ただ、おそらく、この頃がこの航空会社の最盛期だったのだろう。1980年代に入ると経営の失敗やテロによる爆破事件などで急速に地位を落とし、1991年には経営破綻して、その歴史の幕を閉じた。

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