■試合後のスタジアムに向かった先

 試合が終わって1時間。スタジアムにはほとんど誰も残っていない中で、チャナティップの足はピッチに向かっていた。日本から海を渡ってきた横断幕を間近で見るためだ。

 下から見上げたときの笑顔は、どう形容したらいいだろうか。もともと明るい性格と笑顔の持ち主だが、さらに優しくなったような表情を見せた。そして、その前で記念写真を撮った。筆者に動画でのメッセージも撮影させてくれた。その内容はもちろん、サポーターに向けてのもの。等々力という言葉を使って、11月7日の試合を楽しみにするものだった。

「去年Jリーグチャレンジで親善試合みたいな形で来たけど、今回のACLで抽選で何かもう運命のような巡り合わせで2年連続ここに来るとは思わなかった」

 Mさんに話を聞いた際、こう口にしてはにかんでいたが、それはチャナティップも同じ気持ちだろう。移籍してすぐに等々力に“帰る”なんて、と。

「気をつけて帰ってください」

 筆者らにこの言葉とともに両手を合わせながら帰路へとついたチャナティップは、翌日以降、すぐ近くのクラブハウスで次のリーグ戦へと準備をすることとなる。半年前とはプレーするリーグも国も違う。役割もユニフォームも違う。それでも、あの横断幕だけは、変わらずその活躍を見守ることなる。

(取材・文/中地拓也)

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