■「とにかくうれしいんです」

 冒頭で述べた小学5年生の女の子が泣いたのは試合のハーフタイムのことだった。この日、メンバーに入らなかったDFジェジエウ、MF大島僚太、DF大南拓磨ら8選手がこの部屋を訪れた。そして、記念撮影に応じたほか、実際に交流を持ったのである。

 泣いてしまったのはその記念撮影の瞬間で、すぐに選手から離れてしまった。彼女の母親は、「1歳の頃からずっとフロンターレを応援しているんで」とその理由を明かした。泣き出した直後とあって、試合を観た感想はうまく口から出てこなかった。だが、「楽しかった?」と聞かれると、笑顔でうなずいてみせた。気持ちを伝えるのがいつも言葉だとは限らないのは、誰だって同じだ。

 この日、5組の親子に話を聞いた。その中で、とても印象的な言葉を残したのが、9歳の男の子の母親(39)である。仮に、中原さんとする。

 テラスシートではなく室内の椅子で並んで座る中原さんは、「ふだん、集中して試合を観れることができないですし、耳を塞いじゃったりするんです」と、本来のサッカー観戦の様子を説明する。しかし、以前に参加した際、「こういう環境があれば2時間ずっと楽しんで観てくれる」と驚きがあったという。

 しかも、驚いたのはそれだけではなかった。今回、こういうイベントがあると分かると、「また行きたい」と言葉にしたのだという。

「今回、子どもが“行きたい”って自分で言ってくれて。親としては、“また行きたい”って思ってくれたことがとにかくうれしいんです」

 その表情は、話を聞いているこちらまで気持ちよくするほどに素敵だった。

 川崎は今回、ANAや富士通といった協業企業とハード面を用意した。その結果、ふだんは外出が難しい親子にサッカーを通して新たな楽しみを感じてもらうことに成功している。

 そしてそれをソフト面から支えたのが、サポーター有志だった。チームとともに動いたサポーターのその繊細さにも、ただただ驚くしかなかった――。

(取材・文/中地拓也)

(2)へ続く
PHOTO GALLERY ■【画像】不安や飽きてしまった時のために特別に用意された「センサリールーム」と、子どもたちの観戦した部屋の様子■
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