GKの変化を促した1992年のルール変更【「ゴールキーパー」から「ゴールプレーヤー」の時代へ】(2)の画像
現代のGKには足元の技術も求められる 撮影:中地拓也

 サッカーは時代とともに進化していく。近年の大きな変化はGKのプレーだ。「ゴールキーパー」ではなく「ゴールプレーヤー」と呼ぶべきだと主張する声も上がるポジションについて、サッカージャーナリスト・大住良之が深掘りする。

■ハンガリー代表の挑戦

 20年間の眠りから覚めた人が現代のサッカーを見て最も驚くのが、GKの役割の変化ではないだろうか。

 かつて、GKは文字どおり自陣ゴール前に陣取る人だった。「ペナルティーエリア全面をカバーできるGK」という表現があり、それがその選手の「特徴」とされたほど、ゴール正面、ゴールエリア周辺だけでプレーするのが当然だった。まさに「ゴールキーパー」は「ゴールの番人」であり、「守護神」であり、それ以上ではなかった。

 だが、このGKをより広く活用したら戦術的飛躍ができるのではないかと考えた指導者は、すでに20世紀の半ば以降、継続的にいた。その最初は、1950年代に「マジック・マジャール」のニックネームで4年間無敗のチームを築いたハンガリー代表のシェベシュ・グスタブ監督(「シェベシュ」が姓)だった。このチームはセンターフォワードを中盤に引かせた「M型FW」で知られるが、GKグロシチ・ジュラ(「グロシチ」が姓)をDFラインの選手である「スイーパー」とGKを合わせた「スイーパー・キーパー」として活躍させたことも、また革命的な出来事だった。

 攻守のチーム力を上げるためにDFラインを高く保つ。そしてDFラインの背後にできる広大なスペースは、GKグロシチがペナルティーエリアを出てカバーする―。理屈としてはごく単純なのだが、ゴールをがら空きにするという「リスク」を冒す勇気をもつチームはなかった。そのなかでシェベシュがグロシチにペナルティーエリアを離れることを命じたのは、当時のハンガリー代表の技術レベルが隔絶して高く、パスをつなぐなかでミスが非常に少なかったためと思われる。

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