■慣習の打破
1世紀以上続いた「慣習」を打ち破ったのは、1995年12月15日にEU(欧州連合)の「欧州司法裁判所」(ルクセンブルク)が出したひとつの判決だった。1990年夏、RFCリエージュというベルギーのクラブに所属していたジャンマルク・ボスマンという選手が契約満了とともにフランス2部のUSLダンケルクに移籍を希望した。しかしリエージュは破格の移籍金を要求することでこの話を壊し、ボスマンを飼い殺しにした。練習もさせず、年俸もそれまでの契約の25%しか払わなかった。
困窮したボスマンは欧州司法裁判所に提訴、その判決が下ったのが、5年後だった。サッカー界の「慣習」は全面否定され、以後、サッカー選手を縛るのは契約だけとなった。現在も「移籍金」という言葉は使われるが、「ボスマン以前」には「保有権買い取り」という意味だったものが、「ボスマン後」には、「残存している契約期間の補償」という意味に変わっているのである。
「ボスマン・ルール」に従ったのは、当初はEU圏内の国々だけだった(当然、当時は英国も含まれていた)が、やがて世界に広まり、現在は世界中のプロサッカー選手がその恩恵を受けている。日本は1993年のJリーグ・スタートに合わせて「保有権」を元にしたプロ選手の移籍金制度をつくったが、2009年にこの制度は撤廃され、EUと同様、契約期間満了とともにフリーになれる形となった。