■その1 「PELE」の謎

 誰でも知っていることだが、「ペレ」というのはニックネームである。本名はエドソン・アランテス・ド・ナシメントEdson Arantes do Nascimento。「ド・ナシメント」は父の姓であり、「アランテス」は母の姓。「エドソン」が本人の名前だ。家族はエドソンから派生した「ジコDico」というニックネームで呼んでいた。「ペレ」と呼ばれるようになったのは、近所の子どもたちと裸足でぼろ切れを丸めたボールを追い回すようになってからだったという。ペレは最初その呼び名を嫌い、そう呼んだ仲間にパンチを食らわしたこともあったが、やがて慣れた。

 だがなぜ「ペレ」になったのか、世界中が好奇心に燃えて詮索したが、結局「定説」は生まれていない。なにしろ、本人さえ、「いつの間にか、そう呼ばれるようになっていた」と言うのだから。

 ブラジルでは名前の種類はそう多くない。多くの親が子どもにカトリックの聖人の名前をつけるからだ。その結果、似た名前が非常に多くなる。すると人びとは日ごろからニックネームで呼び合うようになり、それがサッカーの登録名にもなって、ニックネームのまま選手生活を過ごす人が非常に多い。

 ただブラジルという国は名前の付け方自体に厳しい規制があるわけではなく(それがある国も少なくない)、ときおり外国の有名人の名前などを借用するケースもある。「ソクラテス」もそのひとつだが、「エドソン」も、父が好んだアメリカの発明王エジソンにあやかったものだったらしい。だからどちらかといえば珍しい名前であり、彼の呼び名は「エドソン」あるいは家族が呼んでいたように「ジコ」でもよかったのだが、「ペレ」で一生を通してしまった。

 一説によると、草サッカーのことをブラジルでは「ペラーダ」と言い、そこから生まれたものだという。だがニックネームの由来は謎のまま、エドソン・アランテス・ド・ナシメント氏は「ペレ」として82歳の人生を終えた。

(2)へ続く
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