■やむにやまれず…

 僕も毎日のようにスタジアムの前で試合前に2、3時間は“ダフ屋行為”をしていました。

 トリノのスタディオ・デッレアルピの前でブラジル戦の入場券を売っていたら、各国のサポーターたちが集まってきて、黒山のひとだかりができました。

 ほとんどは英語かイタリア語がでしたが、ドイツ語やスペイン語、ポルトガル語、フランス語で声をかけてくる人もいます。中には、どういうわけかカタコトの日本語で「イクラデスカ?」と言ってくる人もいました。

 EUの共通通貨「ユーロ」が導入されたのは21世紀に入ってからのことです。イタリア・ワールドカップの時はまだ各国通貨が使われていましたから、入場券を買いたい人たちもいろんな通貨を使いたがります。

 こちらは、一応、現地通貨のイタリア・リラで値段を言うのですが、すぐに「ドルでいくらか?」、「マルクだと3枚でいくらだ?」と訊かれます。そのたびに、大急ぎで暗算しなければなりません。多言語、多通貨が飛び交って、頭がおかしくなりそうです。

 さらに、人だかりが大きくなってきました。さすがに見かねたのでしょう。数人の警官がやって来ました。

「キミィ、ここで入場券売ったらアカンよ」

 こちらは、「すんまへん。余った入場券を売っているだけなので……」と平謝り。まあ、警官の方も大事(おおごと)にするつもりはなさそうで、「そうか、もう二度とやるなよ」と言って、すぐに行ってしまいました。

 警官の姿が見えなくなったら、さっそくダフ屋再開です。

(2)へ続く
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