J2クラブでさえも可能な「相手の良さを消す」というJリーグの特徴【「天皇杯準優勝」と「ルヴァン杯初優勝」広島のカップ戦ファイナル2連戦の明暗を分けたもの】(3)の画像
苦しい思いをした広島の選手たちは、ルヴァンカップ優勝に安どと喜びの表情を浮かべた 撮影:中地拓也

 サンフレッチェ広島が、1週間で地獄と天国を味わった。天皇杯決勝ではJ2のヴァンフォーレ甲府に苦杯を喫したが、翌週のルヴァンカップ決勝では初戴冠を成し遂げた。似たような展開ながら、2つのファイナルの明暗を分けたものは何なのか。サッカージャーナリスト・後藤健生が勝負の綾をひも解く。

■一般的な番狂わせではない甲府の天皇杯優勝

 ヴァンフォーレ甲府の先制ゴールは前半の26分に左CKから生まれたのだが、この得点シーンも荒木翔がサンフレッチェ広島のペナルティーエリアの深くまで進入して戻したマイナス気味のクロスを三平和司が決めたものだった。

 CKのキッカー長谷川元希はショートを選択。このボールを受けた山田陸がタッチライン沿いに位置を取った長谷川に戻す。すると、その瞬間に中寄りにいた荒木がスタート。広島のペナルティーエリア内深い位置(いわゆるポケット)まで走り込む。その荒木に長谷川からのボールが渡り、ほぼフリーの荒木が中央にグラウンダーのクロスを折り返した。

 見事にデザインされたセットプレーだったのだが、荒木がポケットに走り込む形は単にセットプレーの時のオプションだっただけではなく、流れの中でも何度か見られた形だった。CKは、その形の応用だったのである。

 この試合の前半の立ち上がり、広島の攻撃は前半10分に左サイドからパスをつないで最後に茶島雄介が強いクロスを入れた場面くらいしかなかった。逆に、30分過ぎまでは甲府の攻撃のシーンばかりが目立った。

 サッカーというのは番狂わせの多いスポーツである。

 だが、普通、番狂わせは、弱者が守備で耐え続け、カウンターやセットプレーからの数少ないチャンスをモノにして成立するものだ。攻撃される回数が多くても、GKが当たっていたり、運が味方することで失点を防ぐことができる。それが、サッカーというスポーツの特徴であり、だからこそアップセットが起こりやすいのだ。

 しかし、天皇杯決勝での甲府の戦い方は、こうした一般的な番狂わせとはかなり異なっていた。

 つまり、少なくとも前半は甲府が広島の攻撃をしっかりと封じ込めて、流れの中からも攻撃の形を作り続け、そうした中でたまたまCKから先制ゴールが生まれた。そんな試合だったのだ。

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