大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第95回「増える一方の『ベンチスタート』」(2)アメリカから輸入された発明品「ダグアウト」の画像
スタジアムツアーでは、チームベンチは必須。ここに座り、未来の自分を思い描く。でもピッチに立っているほうがいい? スコットランドのセルティック・パークで。(c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は「チーム役員、交代要員および交代して退いた競技者の座席」―。

■イングランドのサッカー文化の奥深さ

 さて、私のお気に入りの本のひとつに、英国のデービッド・バウカムという人が著した『Dugouts』(New Holland Publishers社刊、2006年)という小さな写真集がある。イングランドの「ノンリーグ(フルタイムプロ以外)」のクラブのグラウンドのチームベンチを78クラブ分、ひたすら並べたものなのだが、これがなかなか味がある。

 レンガづくりのもの、荷物置き場のような木製の小屋、バス亭の待合小屋のようなもの、両チームのベンチがくっついたものなど、実にさまざまなのだが、「Home」と「Away」がしっかりとあることだけは共通している。ページをめくっていると、そこで土曜日の午後に行われる試合の様子まで想像でき、イングランドのサッカー文化の奥深さを見る思いがする。

 ノンリーグのクラブのグラウンドでも、現在では、軽量スティールとアクリルボードを組み合わせた出来合いのチームベンチを据え付けるところが増えているらしい。バウマンはクラブそれぞれの手作り感あふれる古いベンチが消えていくのを惜しみ、この小さな写真集をつくったという。

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