■偉業の始まり
ウーベ・ゼーラーは第二次世界大戦の前夜、1936年にハンブルクで生まれた。父エルビンもハンブルク生まれのサッカー選手で、市内のクラブで有名選手になり、28歳を迎えた1938年から市内きっての強豪であったハンブルガーSVでプレー、非常に人気の高いプレーヤーだった。ただ、彼がプレーしていたころは完全なプロではなく、セミプロといってもアマチュアに近かった。エルビンは造船所で働くことで家族を養っていた。
エルビンには3人の子どもがいたが、長男のディーター(1931年生まれ)とともに次男のウーベも小さなころから並外れたサッカーの才能を見せ、1946年、戦争が終わって落ち着くと、エルビンは2人の息子をハンブルガーSVの少年チームに入れてサッカーを学ばせることにする。そして後に、2人はハンブルガーSVのFWラインでコンビを組んで活躍することになる。
ドイツでは高等教育に進まないものは誰もが職業教育を受けることになっている。もちろん、その「職業」にはサッカーは含まれていない。初等教育を終えると、ウーベは運送業を学び、港で働きながらサッカーを続けた。しかし1953年8月、16歳のときに早くもファーストチームに呼ばれ、シーズン前の親善試合に出場する。そして翌年7月には、ドイツ・サッカー協会の特別許可を得てファーストチームに登録された。デビュー戦となった8月1日のカップ戦では、ライバルのホルスタイン・キールを相手に4ゴールを記録し、たちまちのうちにハンブルガーSVのエースに躍り出る。