■伝説の「個人練習」

 ドイツでも、「センターフォワード」「9番」といえば大型でヘディングが強い選手というイメージが強かった。しかしゼーラーは170センチ(ある資料では168センチ)しかなかった。それでもヘディングの強さは圧倒的だった。ヘディングだけでなく、オーバーヘッドシュートやジャンピングボレーなどのアクロバチックなシュートも得意としていた。強烈なジャンプ力があり、空中でのボディーコントロールが抜群だったのだ。

 そして何より、彼はヘディングの力を磨くために努力を怠らなかった。チーム練習終了後、彼は若い選手にクロスをけらせ、ヘディングシュートを繰り返した。その「個人練習」の結果、ハンブルガーSVのトレーニンググラウンドには、ゼーラーが走り込むコースだけ芝がはげていたと、岡野さんは冒頭の言葉のように紹介したのだ。

 この逸話は、おそらくデットマール・クラマーさんから教えられたものだっただろう。そしてクラマーさんは、日本代表選手たちにも同じような話をしたはずだ。後にこの話どおりの努力を実践した選手がいる。釜本邦茂だ。所属のヤンマーディーゼル(現在のセレッソ大阪)で、彼はチーム練習が終わると若手のFWとGKをグラウンドに残らせ、パスを出させて止めてシュートする練習を長時間繰り返した。それがメキシコ・オリンピックでの7得点、銅メダル獲得として結実した。

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