大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第84回「戦争とサッカー」(3)W杯予選の裏でのエルサルバドルとホンジュラスによる「サッカー戦争」の画像
左上は1970年ワールドカップのポスター。この大会の予選の裏で、別の戦いが起きていた

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は「20世紀名物」について。

■自殺者も出たW杯予選

 第二次世界大戦が終わって四半世紀もたった1969年には、「サッカー戦争」と呼ばれるものが勃発している。中米で隣り合うエルサルバドルとホンジュラスが、ワールドカップ予選を契機に戦争に突入したという話である。

 1969年、1970年ワールドカップの出場をかけた北中米カリブ海地区の第2次予選で両国が対戦した。初戦は6月8日にホンジュラスの首都テグシガルパで行われ、ホンジュラスが1-0で勝った。試合の前夜にエルサルバドル代表が宿泊するホテルの周辺を群集が取り巻き、爆竹やクラクションを鳴らし、ホテルに投石をしてエルサルバドルの選手たちを眠らせなかった。この敗戦にショックを受け、エルサルバドルでは18歳の女性が拳銃自殺を遂げ、その葬儀にはエルサルバドルの大統領だけでなくホンジュラスから帰国したばかりの代表選手もかけつけた。

 第2戦は6月15日、エルサルバドルの首都サンサルバドル。今度はエルサルバドルの群集がホンジュラスのホテルを取り巻き、自殺した女性の肖像を掲げ、ホテルの窓ガラスを破壊して腐った卵やネズミの死骸などを投げ入れた。ホンジュラス代表はエルサルバドル軍の装甲車で守られてスタジアムまで往復したが、ホンジュラスから応援にきたサポーターたちが暴行を受けて2人が死亡するという騒ぎのなか、試合は地元エルサルバドルが3-0で勝った。

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