しかし話はそう単純ではない。そもそも両国は歴史的に深い関係にある。ともにスペイン語を話し、民族的にもほとんど同じ。両国とも、上から水色、白、水色に塗り分けられた国旗を使用している。この2か国とグアテマラ、ニカラグア、コスタリカの計5か国は、1823年の独立時から数年間、「中央アメリカ連邦共和国」という1つの国家を形成していたのである。コスタリカ以外の4か国が「水色-白-水色」の国旗を使っているのはその名残だ。
■両国の国民が感情を悪化させた背景
さて、20世紀半ば、エルサルバドルとホンジュラスは対照的な国だった。エルサルバドルは国土が小さく、人口が多い(四国の約半分の国土に、1969年当時は358万人)。一方のホンジュラスは、国土はエルサルバドルの6倍(本州の約半分)もあるのに人口はわずか263万人。エルサルバドルではコーヒーの生産を主産業とする国の方針もあって、自給自足の農業生活ができなくなり、合法非合法にホンジュラスに移住して農業を営む人は後を絶たず、このころには30~50万人にものぼっていた。
しかし1969年、ホンジュラス政府はエルサルバドルからの移民に国内の労働力を頼る方針を一転、土地所有をホンジュラス国内で生まれたものに限るという法律を制定し、それに該当しないエルサルバドル移民に対し、30日以内に国外退去を求めた。エルサルバドルにはホンジュラスから追い出された人びとが次々と帰国、両国間の国民感情を悪化させていた。
エルサルバドルとホンジュラスの国境の大きな部分がスンプルという名の川。しかし雨季と乾季で流れが大きく変わることから、国境戦が不明確な場所があった。国境戦をめぐって、それまでにもたびたび武力衝突があり、死者も出ていた。