■交代策はギャンブルではない
交代選手がゴールを決めると、よく「交代策的中」などと表現されるが、多くの場合は、「このタイミングでこの選手を投入したらこういう状況になる」という計算があっての、戦術的な選手交代である。「理論」がそのとおりに運んだだけであって(そのとおりに運ばないことも多いが)、「ギャンブル」が当たったわけではない。
だがジョホールバルでの延長戦前、3人の交代を送り込む前に、岡田監督は迷いに迷った。当時の延長戦は「ゴールデンゴール制(日本でいうVゴール制)」である。得点を入れればその瞬間に試合が終わる。だが点がはいらなければ30分間もある。その間にGKがケガをしたらどうなるのか? PK戦のGKは? 3人目の交代をした後に誰かが骨折したら、PK戦はどうなるのか…。さまざまなことが頭をよぎったが、考えるだけ考えると、岡田監督は「まあいい、岡野(雅行)で行こう」と決断したという。
北沢豪に代わってピッチにはいった岡野のスピード、足の速さは、これまでのJリーグ史上でも突出したものだ。90分間の戦いで疲れ切ったイランの選手たちは、岡田監督の狙いどおり、岡野のスピードにまったくついていけず、何回も決定的なチャンスが訪れた。しかし岡野はそのたびに最後のプレーを失敗し、ワールドカップ初出場をもたらす「ゴールデンゴール」が決まったのは、投入(記録上は91分)から27分後、延長後半13分というぎりぎりの時間だった。