■“ライバル”中山雄太を熱く鼓舞

 長友は試合後の取材で「(今日は)20代に戻ったようなフィジカルと体のキレだった」とも話していた。たしかに、安定した守備から何度も繰り出した鋭いオーバーラップは「健在」を感じさせるものだったが、さすがに、今から11年前、インテル・ミラノに移籍した24歳の頃のものと同様ではないのかもしれない。しかし、現在の長友には、その頃にはない別の重要なもの、代表での別の役割があるのではないだろうか。

 1-0とリードして前半が終了した際、ハーフタイムでロッカーに引き上げる長友は、他の選手が淡々と戻るなかにあって、サブ組と熱くタッチをしたり、ハグをするなど盛り上げていた。そして、後半23分、中山と交代した際は、激しく両手でタッチし、ハグ、そしてライバルである中山を、行ってこいと大声で鼓舞した。

 さらに交代後、長友は、試合終了となる後半49分までの26分間、ベンチに座ることをしなかった。ベンチに前に立ち、ピッチにいる11人に対して、大きく手を叩き、大声を張り上げ続けていたのだ。

 そして、2-0で勝利を収めた後は、ハーフタイムのとき以上のハイタッチ、ハグを繰り返していた。試合後のオンライン取材で長友は、交代後、ベンチの前で声を出し続けていたことを聞かれ、「ピッチの外にいましたが、自分は一緒に戦っていました。自然とピッチの中に指示を出し、モチベイトしていましたね」と語った。

 今回の重要な中国代表戦、サウジアラビア戦の2試合には、チームの主将である吉田麻也が負傷のため不在だった。強力なキャプテンシーを持つ吉田の代わりに今回、キャプテンを務めたのは遠藤航。彼は背中で引っ張っていくタイプだという。

 取材陣に公開された試合前の練習でも、大声を出し、ときには“後輩たちに”イジられながらチームを盛り上げ、牽引した長友。もちろん、いまだサッカー日本代表の左SBの“第一人者”を譲るつもりはないだろうし、森保監督もその能力面を第一に買っての起用していることは間違いない。だが、それだけではない“役割”を、森保監督は長友に期待しているのではないだろうか。

 試合終了時の埼玉スタジアムの気温は3℃を割り込んでいた。半袖の選手もいたサウジアラビア代表にはこの寒さは応えたのではと想像できるが、その真冬の冷たいピッチには、イタリア仕込みの情熱の男の熱き魂の余韻が残っていた――。

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