■スペインに負けなかったメキシコとイタリアの芸術性

 ミロのポスターの後を受けた1986年メキシコ大会はハードルが高い。しかもこの大会は本来コロンビアで開催されることになっていたのだが1983年に経済事情の悪化で返上、代わってメキシコで行われることになったため準備期間も3年しかなく、さらに大会まで1年を切った1985年の9月にはマグニチュード8.0という大地震に襲われた。だがそうしたなか完成したポスターは見事なものだった。

 ワールドカップのポスターでは史上初めて写真をメインとし、アステカ文明の遺跡をバックにサッカーボールなどを配した芸術生の高い連作としたのだ。起用されたのは、アメリカ人の女性写真家アニー・リーボヴィッツ。ローリング・ストーンズのツアー写真やジョン・レノンとオノ・ヨーコの写真、女優デミ・ムーアの妊婦姿の写真など、歴史に残る作品を次々と発表している人である。

 1990年イタリア大会のポスターは、この大会の隠れたコンセプトでもあった「歴史との融合」が見事に表されている。1900年間以上ローマの中心部に立ち続けるコロッセオを現代のサッカー場に見立てたのだ。これもモノクロの写真が使われている。かつて奴隷の剣闘士が命を賭して戦ったフィールド面は、いまや万国旗に彩られたサッカーのピッチになっている。だがもしかしたら、年間何億円もかせぐ現代のサッカー選手たちも、ローマ帝国時代の剣闘士と似たようなものと言いたかったのだろうか。

PHOTO GALLERY ■【画像】遺跡にシルエットが映る芸術性の高い86年メキシコ大会や、モノクロのスタジアムに色鮮やかなピッチが浮かぶイタリア大会などのポスター
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