勝負の神は細部に宿る。競技の枠を超え、スポーツの世界に伝わる言葉だ。サッカーにおいては、例えばセットプレーがその細部にあたる。そのディテールを掘り下げることで、大局が動くことがある。サッカー取材歴50年以上のベテランジャーナリスト・大住良之が、セットプレーを深掘りする。セットプレーの専門コーチ、山内智裕さんに話を聞いた。
「選手として、また指導者としての経験からすると、セットプレーの練習は誰も好きではありません。1回1回止まり、待っている時間も長いので。『こんなに時間をかけてやるのはもったいない』と思う人も多いんです。実は現役時代、僕もそう思っていました。でも笛を吹かないことで、かえって選手が集中し、試合に近い形になっていると思います」
「僕がセットプレーの指導をするときには、最初の1回だけは1本ずつ止めながらポジションや動き、合わせるボールなどを指示して1時間ほどかけてじっくり行います。しかしそれを1回やっておけば、あとは選手たちに任せて、締めるところだけこちらから言えばだいじょうぶだと感じています。自分たちで6本とか決めて、毎週やっていけば、どんどん良くなります。好まれる練習ではないですが、それを我慢して乗り越えれば、チームは確実に変わります」
実際、山内さんの「リスタート指導」が始まった後、FC岐阜はCKやFKからの得点が急速に増え、得点率は2倍に増えたという。長身選手を並べ、CKからの失点ゼロを誇っていたグルージャ盛岡とアウェーで対戦したときには、狙いどおりはね返されたボールをペナルティーエリア外でひろい、それを戻ってきたCKキッカーにパス、ワンタッチでファーポストに送ったところから先制点を奪い、結局4-0で勝利をつかんだ。4点のうち2点はCKから、そして1点はFKからだった。