勝負の神は細部に宿る。競技の枠を超え、スポーツの世界に伝わる言葉だ。サッカーにおいては、例えばセットプレーがその細部にあたる。そのディテールを掘り下げることで、大局が動くことがある。サッカー取材歴50年以上のベテランジャーナリスト・大住良之が、セットプレーを深掘りする。
「3つのコーナー、1つのゴール」
1960年代、デットマール・クラマーさんが日本代表のコーチを務めていたころ、よく口にしていた言葉だ。3本コーナーキック(CK)があれば、1点取れるという意味である。当時の西ドイツには、フリッツ・ワルターという伝説の名MFがいた。彼にはオットマールという弟がいて、彼はフリッツと同じ1FCカイザースラウテルンのストライカーだった。長身で頑健なことで有名だったが、ある試合で兄フリッツのCKから4点をヘディングで決めたことがあったという。
クラマーさんの言葉は、いまでは「神話」だ。CKがそれほど得点に直結しないものであることは、Jリーグの試合を見ていればよくわかる。1993年からことしの9月24日まで、J1では8264試合が行われ、CKは8万4321本記録されている。およそ、1試合で両チーム合わせて11本強のCKがあったことになる。そしてそのうち得点につながったのは、1990回に過ぎない。42本に1点、およそ4試合に1回しかCKからの得点は生まれていないのである。
CKというと、2018年の日本代表を思い起こすのは、私だけではないだろう。ロシアで開催されたワールドカップに出場した日本代表は、初戦のコロンビア戦、1-1の同点から本田圭祐の左CKを大迫勇也がヘディングで決めて勝利をつかみ、ラウンド16のベルギー戦では、2-2の同点で迎えた試合終盤につかんだ左CKが相手GKにキャッチされ、そこからカウンターを許して2-3の敗北を喫した。