■ベースとなる戯曲は日本にも伝えられた
作曲家リチャード・ロジャーズ(1902-1979)と作詞家で劇作家のオスカー・ハマーシュタイン2世(1895-1960)は、第2次世界大戦後のアメリカのショービジネスに最も大きな影響を与え、成功したコンビだった。1943年の『オクラホマ!』に始まって、1945年の『回転木馬』、1949年の『南太平洋』、1951年の『王様と私』、1959年の『サウンド・オブ・ミュージック』など、ミュージカルから映画化もされ、日本でも大ヒットした。
ともにニューヨークのユダヤ系の家庭で育った2人は、コロンビア大学の同窓生で、1920年代には共同で作品をつくり始めている。そして『オクラホマ!』のヒットで力を得た2人が次の共同制作の「原作」として目をつけたのが、ハンガリーの作家・劇作家であるモルナール・フェレンツ(ファミリーネームはモルナール)が1909年に発表した『リリオム』という舞台作品だった。
遊園地で「回転木馬」の客引きをしていたリリオムという男が、妻と彼女が身ごもった子どもの生活を思って盗みを企てたが失敗、追い詰められて自殺する。16年後、彼は1日だけ地上に戻ることを許され、自分の子どもに善行を施せたら天国に行けると言われる。しかし16歳に成長した娘に天で盗んできた星をプレゼントしようとして不審がられ、思わず叩いてしまう。娘から話を聞いた母親は父親のことを思い出すが、リリオム自身は地獄に送られてしまうという話である。
この戯曲がどれだけ世界的な話題になったかは、時を経ずに日本でも翻訳・出版されていることでもうかがい知ることができる。明治・大正期の文豪・森鷗外が『破落戸(ごろつき)の昇天』という題で1915年(大正4年)に発表、川端康成も1924年に未発表の小説『星を盗んだ父』を書いている。この戯曲を元にした映画も、日本で2回にわたってつくられている。