■「ピッチ周辺広告」と「常設広告看板」の違い

 「スタジアム広告」といえば、1960年代までは観客スタンドの最上部などに取り付けられた常設のものが主体だった。大半が公共の施設である日本のスタジアムではあまり見なかったが、海外では、クラブが小口の資金集めに利用した。観戦客を対象にしたものなので、その町のスーパーマーケットだったり、中小商店、中小企業の広告ばかりだった。いちばん大きく目立つのがクラブのオーナーが営業する会社の広告であることも珍しくなかった。

 1970年代に「ピッチ周辺広告」が登場する。それまでの「常設広告看板」と決定的に違うのは、観戦客ではなく、テレビ視聴者を対象にしたものだったことだ。看板が置かれるのは、バックスタンド側のタッチライン外、そして両ゴール裏だけ。テレビ放映のときにプレーの背景に映り込むものに限られていることで明らかだろう。

 私が見た最も奇妙なピッチ周囲の「広告看板」は、2004年12月に横浜国際総合競技場で開催された日本代表ドイツ代表の国際親善試合で掲出されたものである。この試合では、メインスタンド側のタッチライン外にも、ずらりと広告看板が並べられていた。しかもテレビカメラがあるメインスタンドには背を向け、ピッチの内側に向けられてである。もちろん、プレーヤーたちに見せるための広告ではない。そしてバックスタンド側の観客に向けられたものでもない。

 この試合はドイツでも生でテレビ放映された。この当時、自国開催の2006年ワールドカップを1年半後に控え、ドイツでは代表チームに対する関心が異常に高かった。相手が日本で、ドイツ時間だと木曜日の正午過ぎのキックオフという時間でも、ドイツのファンの関心は薄れなかった。そのため、ドイツ向けの放映権はドイツ協会が販売し、バックスタンドに独自のカメラと放送席を設置し、日本での放映とはまったく違うバックスタンド側からの映像をドイツに送っていたのだ。その映像の「上端部」には、当然、ドイツ国民向けの広告看板が映っていた。

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PHOTO GALLERY 【画像】各スタジアムの広告看板
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