■【その7 オールドファーム】

メインスタンドの最前列には、ロックスターのロッド・スチュワートの終身観戦席が設けられている。スチュワートもセルティックの熱狂的なサポーターだ。(c)Y.Osumi

・世界で最も過激な“グラスゴー・ダービー”

 ことし8月28日、ポステコグルー監督率いるセルティックはアウェーで同じグラスゴー市のライバル、レンジャーズに0−1で敗れた。もちろん、古橋は得点できなかった。セルティックとレンジャーズの対戦は「オールドファーム」と呼ばれ、世界でも最も過激な「ダービー」のひとつとして知られている。

 世界の「ダービー」には、「大衆対カネ持ち」という関係がある場合が少なくない。大衆が支持するクラブと、カネ持ち、すなわち支配層の人びとが応援するクラブのライバル関係である。ブエノスアイレスにおけるボカジュニアーズ対リバープレート、リオデジャネイロにおけるフラメンゴ対フルミネンセなどだ。セルティックとレンジャーズの関係もそれに近いものがあるが、もうひとひねりある。

 セルティックが生活に苦しむアイルランドからの移民、カトリック教徒のクラブであるのに対し、レンジャーズはスコットランドの宗教改革で誕生したプロテスタントの長老派教会のクラブという側面をもっているからだ。社会階層、宗教、さらには政治面でも対立する2グループの対決が「オールドファーム」というダービーマッチに凝縮されているといっても過言ではない。

 スコットランド・リーグでの両者の対戦は1891年以来324試合あり、セルティックの110勝88分け126敗。セルティックはわずかに分が悪い。先月、「今回こそ、超攻撃的サッカーでレンジャーズを叩きのめしてくれるのではないか」というサポーターの期待に応えられなかったセルティック。Jリーグの試合後には結果より試合内容のことばかり話していたポステコグルー監督だが、この試合ばかりは勝利が欲しかったのではないか。

 このオールドファームで記憶に残るゴールを決めたことで、中村俊輔はクラブを去って十数年たついまでもサポーターの間で名前が出る存在になっている。2008年4月16日のホームゲーム、前半20分、レンジャーズ陣中央で右からボールを受けた中村は、一歩もつと30メートルの距離から左足を思い切り振り抜いた。ボールはゴールのやや右に向かって飛んだが、ゴールに近づくと大きく左に曲がりながら落ちた。結果的にはゴール中央上へのシュートだったが、その信じ難い曲がり方に、レンジャーズGKは何もできなかった。

 この後、同点にされたセルティックだったが、後半に中村がペナルティーエリア右からシュート。GKを破ったシュートをDFが手ではじき、PK。アラン・マグレガーのPKは止められたが、終盤にオランダ人のヤン・フェンネゴールオフヘッセルリンクがヘディングシュートを決めて2−1で勝ちきった。中村にとって、けっして忘れられない試合だろう。

「オールドファームOld Firm」というダービーの名称がどう生まれたか、定説はない。しかし有力な説がある。1888年に最初の「セルティックパーク」が誕生したとき、最初にセルティックが対戦相手として迎えたのがレンジャーズだった。試合は5−2でセルティックが勝ったが、このときの両チームの様子を見た人が「まるで古くからの(オールド)、堅固な(ファーム)友人たちのようだ」と言ったという説である。

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