■1924年にさかのぼる、「東日本の官主導」と「西日本の民間資金」

 国立競技場の前身である明治神宮外苑競技場は、日本で初めての大規模スタジアムとして1924年に完成した。このスタジアムは、1912年に崩御した明治天皇の遺徳を偲ぶために造営された「明治神宮」の外苑に建設された西洋式公園の一角にあり、戦前の日本で大きな権力を握っていた内務省が管轄するものだった。

 同じ1924年には兵庫県西宮市に甲子園球場が完成している(当初は陸上競技やサッカー、ラグビーにも使用する設計だった)。その後、甲子園には陸上競技場(サッカー、ラグビーにも使用)やテニスコートなどを含む大規模なスポーツ・コンプレックスが建設された(現在は野球場以外は撤去)。

 明治神宮外苑競技場が内務省によって建設されたのに対して、甲子園は民間企業である阪神電鉄によって建設された。大阪の『朝日新聞』が主催した全国中等学校野球大会の人気が高まって従来使用されていた豊中球場などが手狭となったために、廃川となった武庫川の支流の跡地を利用して建設されたものだ。

 関西の民営鉄道(私鉄)は利用客を増やすために沿線に住宅地を開発したり、ターミナルに百貨店を建設したりしたが、その一環としてスポーツ施設の整備も行ってきた。

 甲子園以外にも、阪急電鉄は西宮野球場と西宮球技場を建設したし、近畿日本鉄道は現在の東大阪市にラグビー場を建設した。西宮の施設はすでに廃止されてしまったが、近鉄が建設した花園ラグビー場は2019年のラグビー・ワールドカップにも使用され、現在も日本で有数のラグビー場となっている(現在、同ラグビー場は東大阪市の所有となっており、公募設置管理制度が導入されて「東大阪花園活性化マネジメント共同体」が運営しているが、同共同体には日本フットボールリーグ(JFL)所属のサッカークラブ、FC大阪も加わっており、花園はJFLの試合にも使用されている)。

 つまり、東日本では明治神宮外苑競技場の建設以来スタジアム建設は“官主導”で行われているのに対して、西日本では甲子園球場以来、民間資金によってスタジアムが建設されるという伝統があるのだ。その結果として、ここ数年で西日本に近代的で観戦しやすいサッカー専用球技場がいくつも建設されてきたというわけである。

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