大住良之の「この世界のコーナーエリアから」連載第69回「監督たちの命運」(2) わずか「10分間だけ」の監督の画像
無念の解任劇となったガンバ大阪の宮本恒靖前監督 撮影/中地拓也
サッカー監督――はかない権力者たち。その仕事は試合で勝つことを最大の目的とし、日々トレーニングの指揮をとり、コーチ、スタッフとミーティングを重ねる。チェックする映像も膨大だろう。やることは無限大にあり、全生活がサッカーに捧げられている。しかし成功する者はほんの一握りで、どれだけ人知を尽くしても成績が上がらなければ、いつ解任されても文句は言えない。でもひょっとしたら、やった者にしか分からない魅力たっぷりの職業なのかも――。
※その1はこちらから

■世にも稀なブラジルでの「監督ルーレット」

 だが、ベンゲルやファーガソン、石崎信弘監督、ネルシーニョペトロヴィッチ、そして西野朗監督は、例外中の例外と言っていい幸運で幸福な監督だ。ひとつのクラブで3年間続くのは希で、多くの監督が2シーズンもたずに解任の憂き目にあう。クラブの会長が監督の人事権まで握っているブラジルのクラブでは、わずか数試合で監督が解任されることも珍しくない。

 2006年8月末、ブラジルの名門フルミネンセは就任してわずか2週間のジョスエ・テイシェイラ監督を解任し、アントニオ・ロペス監督を後任に据えた。ロペスはフルミネンセにとってこの年5人目の監督だった。そしてここでようやく、まるで漫画のようなブラジルの「監督ルーレット」がピリオドを打つのである。テイシェイラがフルミネンセの指揮をとっていた2週間の間に、実に5クラブの間で「監督のたらい回し」あるいは「監督玉突き」が行われたのだ。

 始まりは8月中旬、フルミネンセがオスバルド・オリベイラ(後に鹿島と浦和で指揮)を解任し、テイシェイラを監督に据えたことだった。間髪を入れず、オリベイラは同じ日にパウロ・セーザ・グスマンを解任したクルゼイロの監督に就任する。するとこんどはグスマンがエメルソン・レオンが去ったサンカエタノの監督に就任、レオンはジェニーニョを解任したコリンチャンスの監督となる。そしてジェニーニョはアントニオ・ロペスを解任したゴイアスの監督となるのである。ここまでの動きに要した時間はわずか2週間。そしてアントニオ・ロペスが、テイシェイラを追い出すようにフルミネンセの監督に就任するのである。

 ここでクイズ。この2週間で6人の監督がクラブを移った。だが「椅子」は5つ。最終的に椅子を失ったのは誰だろう? 正解はもちろん、ジョスエ・テイシェイラである。だがめでたく、彼も間もなくフロリアナポリス市のアバイFCの監督に就任している。ブラジルでは、こうした頻繁で安易な監督の交代をなくすため、最近、「解任は年1回」、すなわち監督として契約できるのは年に2人までというルールができたそうだ。

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