■通学中に聴いたメキシコ大会のラジオ実況

 4年後、私は高校2年生になっていた。すでに押しも押されぬサッカー・クレージーだった。メキシコ・オリンピックのサッカーのラジオ放送を、登校中の電車のなかで聞いていた記憶がある。グループリーグの第2戦、ブラジル戦だった。

 ブラジル戦のキックオフは現地時間で10月16日の15時30分。日本時間では10月17日木曜日の午前5時30分である。私の自宅は横須賀市の久里浜、学校は鎌倉市の大船である。8時10分の始業に間に合わせるために、私は6時半ごろに家を出て、JR(当時はまだ国鉄だった)の久里浜駅発7時過ぎの横須賀線に乗った。席につくと、窓のところにトランジスタラジオを置き、イヤホンでメキシコからの実況中継を聴いた。

 試合は立ち上がりに1点を失い、苦しい展開だった。電車が動き始めたときには、後半30分を回っていただろう。久里浜を出るときにはガラガラだった横須賀線も、次の駅、次の駅でほぼ満員になる。ひと駅ごとに、サッカー部の仲間が1人、2人と乗ってきては、私が座っている座席前の通路にやってくる。彼らも耳にイヤホンを入れている。

 だが、横須賀線はトンネルだらけ。トンネルにはいるたびに電波が届かなくなる。チャンスになったと思うと、ザーっと雑音になる。しかしひとつのトンネルを出た瞬間、「はいった、はいった!」とアナウンサーが言っているのを私は聞いた。語調からすれば日本の得点だ。釜本がどうのこうのと言っているうちにまたトンネルにはいる。

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