■貫くべきはハンドリングの「思想」である

 これを、守備側にも適用したらどうだろうか。たとえば、GKが外れてしまっているゴールにシュートが飛ぶ。ゴールライン上でブロックしようとしたDFが右足を伸ばして体を倒す。こうした動きでは、体を守るためにつく「つき手」は「正当な動き」とされる。このケースでは、DFは自然に右手を体から離し、グラウンドにつけるだろう。そこにボールが当たってはね返されたとき、現在のルールでは、「自然な手や腕の動き」として、反則にはとられない。

 しかし彼の背後には他の選手はいない。手に当たっていなければ、間違いなく得点だ。それが「偶発的」な形で手に当たってノーゴールというのは、果たして「公平」の精神に適合するだろうか。

 正直なところ、「ハンドリング」に関する今回のルール改正には非常に失望させられた。「意図的なものだけを反則にする」という原則が貫かれず、「妥当性」などというあいまいな基準を示しただけで、レフェリーたちを苦境に陥れるだけでなく、サッカーのルールというものの考え方を正す絶好のチャンスを、IFABはむざむざ捨ててしまったからだ。

 もしIFABが、節操のない「朝令暮改」ではなく、正しいことは断固改変する「君子豹変(ひょうへん)」の組織であるなら、来年度のルール改正で「ハンドリング」の思想をしっかりと貫いてほしいと思う。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5