大住良之の「この世界のコーナーエリアから」連載第60回「大きかろうと小さかろうと」(1) 「ナポレオン」と呼ばれたフランスの名手の画像
JEF千葉でプレーしたFWオーロイと深井正樹の身長差は43センチ 写真:アフロ

 かつてJEF千葉に身長204センチのFWオーロイがいたころ、ヘディングの競り合いで、身体に足をかけてよじ登ったDFがいたのには驚いた。彼はJリーグ史上で最長身の選手であり、フィールドプレーヤーとしては世界でもっとも高いと紹介されていた。同チームだった166センチの町田大和(現在は大分トリニータ)と並ぶと、倍以上は高く感じたものだ。そんなわけはない? でも、身長はサッカーでもっともいいかげんなデータなのである。

■「ナポレオン」と呼ばれた男

「オースミくん、コパも小さかったんだよ」

 サッカー部の練習が終わったとき、私にこう声をかけてくれたのは、イグナチオ・オレギ修道士だった。バスク人のオレギ先生は、私が通っていた私立学校に附属する修道院に所属し、サッカー部の指導をしてくれていた。1950年代、始まったばかりの欧州チャンピオンズカップ(現在のUEFAチャンピオンズリーグ)で5連覇を飾ったレアル・マドリードを「レアル・タイム」で目撃し、1960年に来日、私の学校で宗教などを教えられていた。

  彼が話したのは、レアル・マドリードの黄金時代の中心選手のひとり、フランス代表のレイモン・コパのことである。フランスの「スタード・ランス」のエースとして1956年6月の第1回欧州チャンピオンズカップ決勝戦に出場、レアル・マドリードを相手に3-4という奮闘を見せたことで即座にレアルに引き抜かれた。そしてその夏から3シーズンをレアルで過ごし、その間にチャンピオンズカップ3連覇を達成、1959年、フランス代表での活動を優先させるためにスタード・ランスに戻った。

 彼はセンターフォワードとして卓越したテクニックと攻撃を統率する能力をもっていた。「ナポレオン」の愛称で呼ばれ、1958年のワールドカップでフランスを3位に導いた。「フランスが生んだサッカーの名手」といえば、ジネディーヌ・ジダンやミシェル・プラティニを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかしフランス人たちはいまでもコパこそフランス・サッカー史上最高の選手と評価しているという。

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