■名品アクメ・サンダラーをあなたの手に

 警察に採用され、サッカーでも自分がつくったホイッスルが使われるようになったハドソンだったが、そこで立ち止まることはなかった。1883年のある日、彼は誤って愛用のバイオリンを落とし、壊してしまった。だが彼が気を取られたのは高価なバイオリンではなかった。バイオリンが壊れるときに出された高い音だった。その原因を熱心に研究した結果、彼はホイッスルのなかにエンドウ豆を入れることを思いついた。エンドウ豆が回転することで以前より大きく、高い音が出るようになった(1マイル=1.6キロ=も離れたところまで音が届くと宣伝された)ハドソン商会のホイッスルは、ロンドン警視庁の正式採用となり、当然、サッカー界も席巻することになる。

 ハドソン商会製の「アクメ・サンダラー」というホイッスルは、英国空軍のフライトジャケットの胸につけられたり、海運の世界でも重用されて、あのタイタニック号でも使われていたという。発明から150年を経た現在もその改良品が世界中のレフェリーから愛用され、2018年のFIFAワールドカップでも使用された。2019年には、日本で開催されたラグビーのワールドカップでも使用されている。このアクメ・ホイッスルの最高級モデルは、低めの力強い音が出せることで、海外ではいまも愛用する審判員も多い。

 言わずもがなのことだが、「サンダラー」だからといって、「3ドル」(約330円)で買えるというわけではない。だがそう高価なものでもなく、「スペシャルエディション」のようなものでなければ、日本国内でも2000円程度で手に入れることができる。

 もちろん、「ホイッスル」自体がハドソンの発明というわけではない。口で吹いて高い音を出す道具は、すでに古代ギリシャ時代に「ガレー船(たくさんの船の櫂=かい=で漕ぐ大型の軍用船)」で使われていた。ガレー船の漕ぎ手は奴隷である。テンポを合わさせるために彼らを監視するギリシャ兵が吹いていたのだ。おそらく、発明者はギリシャ人でもなく、もっと古い文明から受け継いだものではないか。

※第2回はこちらから

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4