レフェリー御用達のホイッスルは、そもそも英国で警官たちのために開発された。それまで警官たちはラットルで騒音を鳴らして人々の注意を喚起していた。なんと! みなさん、ご存じでしたか? ラットルとは往年のサポーター必携の騒音発生装置。ちなみに、1970年代後半にラットルズというビートルズのパロディ・バンドが大いに世界の話題となったことがあったが、バンド名は「騒音たち」ということになる。そんなこんなで、今回は、レフェリーが使う小さな道具の物語。
■レフェリーとは観客席に座った紳士
日本サッカー審判協会(RAJ)という組織がある。日本サッカー協会ではない。「本家」イングランドの「The Referees’ Association」(1908年設立)にならって1984年に設立された。「審判の地位、資質の一層の向上を図るとともに、審判員相互の連絡共同を密にして、日本サッカーの発展のために寄与せんこと」(設立趣意書より)を目的に設立された。現会長は日本人審判員として初めてワールドカップで主審(1986年)を務めた高田静夫さんである。1級から4級まで、全国に1500人ほどの会員をもっている。
そのRAJが季刊(年4回)で発行している機関誌の名前が「ホイッスル」である。キックオフの合図から始まって、ファウルがあるたびに、そしてFKの合図、リードしているチームのGKにゴールキックを促したり、試合終了の合図まで、主に手に持ったこの小さな「楽器」を吹くことで、主審はその意思を表現する。ホイッスルは、審判たちにとってシンボル的な存在なのである。
だが主審が最初から笛を吹いていたわけではない。あまり古い話を持ち出すのも気が引けるが、サッカーが始まった19世紀の半ばには、そもそも主審(レフェリー)はいなかった。対戦する両チームから1人ずつ「アンパイア」と呼ばれる人が出て、反則やゴールの判定をしていた。ところが、その2人の意見が合わないときがある。そうしたときには、スタンドに座っている紳士にお願いし、「どちらが正しいでしょう」と問い合わせることにした。その「問い合わせを受ける人」が「Refereeレフェリー」なのである。
「……だから主審の判定は尊重しなければならない」と、たいていの場合、この話は教訓じみて終わるのだが、今回はホイッスルの話なのでそう固いことは言わない。やがてレフェリーはピッチに降り、問い合わせを受けるというステップを踏まずに自ら判定を下すようになる。