■埼スタが浦和レッズを強豪へと押し上げた

 Jリーグが誕生したとき、浦和レッズのホームは陸上競技型の駒場スタジアムだった。サポーターたちは、プレーの細部など見ることのできないゴール裏の席に進んで陣取った。「オレたちはここでもサッカーがわかるからいい。新しいファンには、見やすい席で見てほしい」と考えたからだ。

 2001年に埼玉スタジアムが完成したとき、いちばん喜んだのはサポーターたちだっただろう。手を伸ばせば選手たちに届きそうなゴール裏の「特等席」が、彼らに割り当てられたからだ。もっともそこには屋根がなく、雨が降れば「濡れネズミ」だったが……。それまで「弱いクラブ」の代名詞だった浦和が、埼スタでプレーするようになって見る見るうちにサポーターとファンを増やし、クラブが力をつけ、強豪へ、チャンピオンへと駆け上がっていった最大の要因は、もちろん、埼スタだった。

 ドイツが1974年から2006年への約30年を期してスタジアムを切り替えたように、スタジアムには「賞味期限」がある。どんな最先端のスタジアムでも、30年もたてば時代の要請に合わない部分、不都合な部分が出てくる。日本最大のサッカー専用スタジアムとして、浦和だけでなく日本代表の「ホーム」にもなっている埼スタだが、すでに「時代遅れ」の部分が散見される。両ゴール裏の部分が欠落している屋根だけではない。観客の「飛び降り防止」のためにつくられたスタンドとピッチの間の「濠」も、現代のスタジアムの考え方には合うものではない。

 スタジアムは今日明日で建つものではない。現在陸上競技型のスタジアムで我慢しているクラブだけでなく、いまは埼スタで満ち足りている浦和などのクラブも、常に新時代を見据え、クラブの成長のために10年後、20年後にどんなスタジアムが必要なのか、考え続け、計画を進めていかなければならない。もちろん、その選択肢に「陸上競技型」がはいるスキなどない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3